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市民セミナー報告書より

晩秋の六甲山は斑模様

晩秋の六甲山は薄曇りで、赤・黄・緑の斑模様の色づきでした。午前中の環境整備ボランティア活動には10名が参加。8月中旬にアセビを伐採した調査区画の3ヶ月後の状況を観察調査しました。気温は6℃前後で肌寒く、アセビの切り株からは10cm程度の幼芽が伸びていました。

六甲登山歴47年のナチュラリスト

 講師の根岸さんは、「自称フリーライター、何をやって暮らしているのか謎の人物。現在はガイドハウスで山の案内人をしている」と語られました。6月に出版された『六甲山を楽しもう』(神戸新聞総合出版センター刊)には、多種多彩な六甲山の楽しみ方を紹介されています。六甲山初登山は1歳前に“裏山”の須磨アルプスをよちよち歩きした時で、以来47年間六甲山を楽しんでおられます。長い体験で培われた楽しみ方を初心者に伝えたいという想いで今回執筆されました。登山、アウトドアスポーツ、自然観察と、それぞれの領域でプロといえる熟達者です。

六甲山の多様な楽しみ方を棲み分ける

 講演では、六甲山はいろいろな楽しみ方ができることを具体的な事例で紹介していただきました。有名な行事の六甲山全山縦走大会は人数制限がされていて、発売の初日に参加券が売り切れます。もう一つの名物は毎日登山、10の山筋で5000人が歩いているとのこと。
 保塁岩のロッククライミングは海が見える爽快さが魅力。ロープを使わない岩登りのボルダリング、凍った滝を登るアイスクライミング、重い荷物を背負ってアルパインクライミングの練習などは、高い山を目指す人に向いています。一方、観光スポットも一杯で、六甲山牧場は家族連れ向き、夜景、布引ハーブ園、高山植物園など、登山と関係のない人が楽しんでいます。逆に、観光ずれしていない秘境で静かな山歩きもできます。最近「山ガール」が増え、参加者からは「どこに行けば山ガールに出会えるか?」と真剣な質問が飛んできました。
 遭難事故は「道迷い」が40%を占め、全国で年間2000件近くの山岳遭難が発生し、兵庫県は六甲山があるせいか近畿で一番多い。「自分の安全は自分で守る」と強調され、日帰りハイキングでも携帯される「非常セット」の数々を披露されました。トレイルランニングやマウンテンバイクなども盛んですが、歩行者とのトラブルに配慮したいものです。

楽しみ方の多様性という発想を大切に

自然環境の魅力だけでなく、俗化しているが故に、一般の人が気軽に楽しめるという魅力があると、柔軟な発想をされたのが新鮮であった。生物多様性が唱われる昨今、六甲山の楽しみ方の多様性に共感が集まりました。

講演内容

講演の挨拶(根岸 真理さん)

私はよちよち歩きをはじめた頃から六甲山に登り、今では六甲山歴47年です。須磨で生まれ、東灘区・宝塚と引越し、六甲山の西から東までを経験しました。職業は自称フリーライターです(笑)。

1.六甲山ならではの楽しみ方

■六甲全山縦走は参加できない人もいる人気ぶり

毎年11月に2日間にわたって開催され、4000人が参加する。チケットが2日で売り切れるほど人気がある。希望しているのに参加できない人もいる。多くのボランティアがいて、市民レベルで支えながらやっている。
大正時代の新聞には既に踏破の記録がある。最初に全山を歩いたのは誰かは分からないが、おそらく登山家の加藤文太郎だろうと言われている。

■明治時代から続く毎日登山

六甲山でもうひとつ有名なのが毎日登山。大龍寺の近く、善助茶屋の跡に「毎日登山発祥の地」という石碑がある。明治末期、在留外国人が毎日茶店まで歩いてきて、サインブックに名前を書いていた。それを日本人が真似したのが始まりだとされている。華やかだった頃は68もの団体があった。現在は10の山筋で5000人が歩いているといわれる。

2.六甲山のいろいろな遊び方

■ハイキング以外のハードな楽しみ方

普通のハイキングの他にハードな楽しみ方もある。夜道を走るナイトランニングやロッククライミング、ロープを使わずに岩を登るボルダリングも盛んにされている。北側斜面ではアイスクライミングも楽しめる。大きな荷物を背負って歩く歩荷(ぼっか)訓練をやっている人もいる。普段六甲山でトレーニングして、高い山を目指す人も多い。

■観光スポットと秘境が並存している

六甲山牧場や森林植物園、ガーデンテラス、布引ハーブ園、高山植物園など、山上には多くの観光スポットがある。夜景も有名。登山とは全然関係のない楽しみ方ができる。
登山する人にとっては面白くないと思われがちだが、秘境的なところも残っている。特に六甲山の北側には静かな山歩きが楽しめる場所が多い。

■山ガールが増殖している

最近、モデルのKIKIさんの影響で、全国的に「山ガール」が増殖している。六甲山を歩いていると、2、3年前には中高年ばかりだったが、最近は若い女の子が増えてきた。かわいらしいお嬢さんがファッショナブルな服装で歩いている。

■自然観察も楽しい

歩くだけが能ではない。自然観察も楽しい。六甲山ガイドハウスには、土日祝日は山の案内人が3人駐在しており、周辺コースで自然観察会をしている。申込不要で誰でも参加できる。

3.油断大敵!六甲山で遭難?

■六甲山は意外と遭難事故が多い

六甲山は急傾斜で険しいところが多い。意外と知られていないが、遭難事故が多い。「焼肉のたれ事件」は記憶に新しい。六甲山は網の目のように道があり、道を外れてしまう。北アルプスなどの山では道自体が少ないので迷いようがない。

■近畿では兵庫県が一番遭難が多い

警察庁の発表では山岳遭難は過去10年間で右肩上がりに増えており、年間2000件以上が発生している。県別では長野、富山が最も多い。近畿では兵庫、滋賀、奈良の順に多い。山深い奈良県などに比べて兵庫県が多いのは六甲山での事故もかなりあると思う。

■中高年の遭難が最も多い

遭難の態様を見ると、40%を占める道迷いが最も多い。道に迷った結果、転落・滑落する場合も多いだろう。
年齢別では中高年が圧倒的で、60代以上で過半数を超える。加齢に伴い、運動能力は
低下していくが、本人は自覚していないことが多い。遭難しないためには、普段から考えておくことが大事だと思う。

■遭難を避けることは不可能ではない

最近の遭難事例で一番有名なのは北海道のトムラウシの大量遭難事故。同様の日程を組んでいたが、気象情報を入手して途中で引き返し
たツアー会社もある。遭難に至るまでにはいくつもの分岐点がある。注意深くなれば遭難を避けることは不可能ではない。

■根岸さんの非常セット

①エマージェンシー・ブランケット:数百円で買えるアルミの蒸着シート。緊急ビバーク時に役立つ。②救急セット、③防寒具:約300gと軽量。④雨具、⑤ライト:LED電球を使った軽量でコンパクトなもの。⑥テーピングテープ:靴のソールが剥がれたときにも活躍。⑦非常食、⑧コンパス、⑨手ぬぐい:包帯や止血に便利。急に有馬温泉に入りたくなっても使える(笑)。⑩ファーストエイドキット:呼吸が停止した人に遭ってもいいように。感染を防ぐため人工呼吸用のマウスピースや手袋も入れている。

質疑応答

山ガールにはどこで会える?:ロックガーデンでよく見かける。明るいところが好きなのかも(笑)
トレイルランニングって?:ほとんど何も持たずに山中を走るスポーツ。

まとめ(根岸さん)

六甲山は楽しみ方に合わせて住み分けができるのが特長だと思います。海辺から歩けば標高1000mの登山。歩きたくない人はバスとケーブルでも登れます。健脚の人も車イスの人も来れます。
観光地でつまらないと言う人もいますが、観光ずれしていない場所もあります。山登りも滝登りも観光もできる。選択肢があるのが良い。一年中色んなスタイルで楽しめるのが六甲山の売りではないでしょうか。

事務局より

 大都市に隣接する六甲山の楽しみ方は渾然一体という感が大きいです。当会の特長は、市民が自分たちの山を保全し活用することを促進することだろうと、改めて意を強くしました。