参加申し込み

市民セミナー報告書より


午前中は散歩道で「健康歩き」を体験した

 朝の記念碑台は晴天で26℃。20名が参加し、「森と歴史の散歩道」で、ウエルネスウォーキングを体験しました。まず血圧を測定し、広場でストレッチをして、出発しました。「まちっ子の森」では、木陰で「ソロ」という「横臥療法」で10分間瞑想に浸りました。散歩道を周回し、シュラインロードで会員の村上さんから道沿いの西国三十三箇所巡りの石仏を解説してもらいました。

 センターに戻って、西村さんから「距離は2.5キロ、1時間20分、平均速度は1,9キロ。血圧降下の顕著な結果も出ている」と報告されました。

糖尿病を克服し、「健康」を追究する西村さん

 西村さんは、旅行会社の責任者として修学旅行や語学研修など観光ビジネスに携わって来られました。10年前には糖尿病になり、真面目に治療を続けて改善されたとのことです。この経験から糖尿病の要因に関心を深め、栄養学・衛生学を修めておられます。2012年に神戸夙川大学(現在の神戸山手大学の前身)から、ヘルスツーリズムの専門家として招かれ、教員の道を歩まれています。「健康・観光」を研究・体得して、その普及に率先されている実践者です。

「健康保養地」の現況と実践活動に目を開いた

 今回のテーマをヘルスツーリズムという視点から解説されました。地方再生と人口問題という時代の潮流、ヘルスツーリズムの社会的背景から現状まで、体験話をふんだんに盛り込まれて約1時間話され、「この辺で飽きてきましたかね」と、VTRの放映に場面転換されました。

 テレビ番組「サキドリ」の特集、「ヘルスツーリズムでみんな元気に!」を興味津々で30分鑑賞しました。それまで話題に出てきた、熊野古道ウォーキングや、天草ヘルスツーリズムの情景を目にした皆さんは、感心しきりでした。特に、天草プリンスホテルの女将さんの早朝ウォーキングが、地域起こしに広がっていく場面に驚きの声もありました。

 休憩後、世界のヘルスツーリズムとして、ドイツを主に各国での取り組み事例を紹介されました。代表的なドイツの健康保養地(クアオルト)、気候療法や地形療法、クナイプ療法などを解説されました。

 続いて日本のヘルスツーリズムの現況を紹介し、六甲保養地研究会で手がけている、ウェルネスウォーキングを説明されました。ヘルスツーリズムの全貌と、六甲山周辺での実践活動とのつながりを理解することができました。

健康保養地は六甲山の持ち味の再発見になる

 六甲山は都市山として山麓市民が活用できる絶好の環境です。今回は、「ウエルネスウォーキング」を切り口に、六甲山を健康保養地にする提起がされました。六甲山を活かすための大きな発想転換も促されることとと期待します。

講演の経緯(西村 典芳さん)

■研究テーマは地域住民の健康づくり

 私は今、和歌山県立医科大学博士課程の医学研究科衛生学教室の1年生、ほやほやの医学生です。4年間かけて博士号の学位を取ります。私の研究テーマは、今日お話しする地
域住民の健康づくりです。

講演内容

■地方創生と人口問題

 地方創生と人口問題は非常に切実だ。長野県の黒姫高原、信濃町のみらい創生委員で、月に3回から4回出かけている。1万人の町だった信濃町は、2040年には半分になる。創生会議では減らないようにどうしたらいいか話し合いをしている。


●まち・ひと・しごと創生総合戦略:「東京一極集中からUターンさせて、しごとを作ってそこで働いて、住んで貰って、子供を産んで面倒を看て貰う、そして介護もして貰う」という考え方だ。私は「しごと」の部会長で、ウエルネスウォーキングの事業をまず立ち上げた、今度はバイオマス事業も立ち上げる。

■ヘルスツーリズムの社会的背景

 国内の旅行消費額は平成24年で22.5兆円、世界のヘルスツーリズム市場は2012年で44兆円、日本は2.4兆円だ。2017年には1.5倍に拡大する。


●ヘルスツーリズムの位置づけ:平成19年の「観光立国推進基本計画」でニューツーリズムの一つに挙げられた。「自然豊かな地域を訪れ、そこにある自然、温泉や身体にやさしい料理を味わい、心身ともに癒され、健康回復・増進・保持するもの」と説明されている。


●健康悪化の要因と疾病:うつ病患者が増加し、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病の4大疾病に、「精神疾患」を加えて5大疾病とされる。健康維持・増進に欠かせないものは「運動・休養・栄養」で、運動不足が多い。


●メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群):内臓脂肪肥満に加えて高血糖、高血圧、脂質異常の2つ以上を併せもった状態。予備軍が約1,070万人いる。


●ロコモティブシンドローム:寝たきりや要介護になる危険性がある状態で”ロコモ”の呼ばれる。 “運動器”の衰えが原因。健やかに老いるには、「自分で歩ける、自分で食べれる、ボケない」ことが大切。心身ともに自立し、健康的に生活できる期間が「健康寿命」で、平均寿命との間は寝たきりなどの「不健康な期間」。


●超高齢化社会と介護:世界の人口は現在67億人、40年後には90億人になる。北欧諸国では高齢者の自立支援を柱とした医療福祉政策を推進してきた。日本は世界の国々の5倍の速度で高齢化した超高齢化社会だ。日本の介護は「至れり尽くせり」で老人化を促進する。介護の本質は要介護者を出さない「予防介護」にある。

■国が進めるヘルスケア産業

 医療費は去年39兆3千万円、国債額とほぼ同じレベルで、毎年4,5%ずつ伸びている。これを何とかするため、ヘルスケア産業が進められている。


●ヘルスツーリズム認証:この辺では鳥取県智頭町、滋賀県の高島町に林野庁が認めた森林セラピー基地がある。どんなことをやってくれるのかを調査員が認証する、そのために人材を作る。


●宿泊型特定保健指導:厚生労働省で始まった。最初は糖尿病で、教育入院するのではなく、ホテルに泊まって同じような結果を出せるプログラムを民間でやって貰う。健康運動指導士さん、管理栄養士さんが一緒になって、プログラムを開発する動きがある。

1.世界の健康保養地

■世界のヘルスツーリズム事例

 ドイツは374箇所の健康保養地を持っている。日本は、明治維新の時にドイツから医学は学んだが、即効性のない医学は見捨てられ、積み残してきたのが保養制度だ。今は、自然療法、運動療法、生活習慣病とか、いろんな疾患の改善なり予防をする世の中に変わってきた。100年ぐらい遅れている。


●オーストリアの「ベストヘルスオーストリア」:認証制度が古くからある。ヨーロッパの真ん中ぐらいにある土地柄で、周囲の国から温泉に入りに来やすくなる。


●ウエルネスツーリズム:ちょっと旅行に行って温泉に入ってスパ(マッサージを受けたり、スパのプログラムをやりながらゆっくり過ごす)。ハンガリーやスイス、アメリカなどでプログラムが行われている。


●タイは国家制度:タイ式マッサージは国家資格で、店のレイアウトから設備、やれる人の認定まで全部厳格に決めている。タイのスパは非常に世界的なレベルだ。


●韓国の取り組み:2018年の平昌オリンピック開催地の町づくりのため、日本に学びに来ている。国家あげての取り組みで、済州島のホテル建設、森林セラピーのコース整備もしているが、ソフトは追いついていない。

■ドイツの健康保養地(クアオルト)

●クアオルト(健康保養地):「自然を使って、中長期滞在してもらって、プログラムを体験してもらう。そして夜は地域の伝統に触れてもらう。そういう風なことをトータルにやるところ」で、3週間くらいのパックになっている。4年に一度3週間保養をやりなさいと社会保険からお金が出る。クアオルトの中には、温泉、泥パック、海、気候療法、クナイプ、の種類がある。利用者数が1900万人、雇用もすごい。


●気候療法:とにかく生気象、気圧とか気候、涼しいとか冷たいとかをすごく大事にする。一番良いのは転地効果で、その場所に行ったら気分が変わる。神戸市内からここに上がってくるだけで5℃以上気温が違う。


●地形療法:3%から5%の緩やかな坂道を登っていくと、運動負荷が適度に55%か60%になる。そういうものを利用したのを地形療法と呼んでいる。実際に健康保養地で行われているプログラムは1回20~40分歩く。最初は160-年齢(心拍数)で、馴れると180-年齢で、上200から下115で禁止する。


●クナイプ療法:公園の至る所に水場がある。膝から下に水の冷刺激を与え、暖めるのを繰り返すと、血液の流れが良くなる。腕を水につけると降圧効果がある。


 水療法、運動療法、食療法、植物療法、秩序療法。世界の中で一番古い自然療法だと言われているのがクナイプ療法だ。秩序療法というのは今日やった。樹で独りでぼーっとしてたのが秩序療法、メディテーションだ。

2.日本での健康保養地の動き

■日本のヘルスツーリズム

●信州・信濃町の「癒しの森」:企業29社で、3泊4日とか2泊3日とか、新入社員研修をやっている。森林でウォーキングをやって過ごすプログラムだが、新入社員が1人も辞めていないという結果も生まれている。


●信州ウエルネスツーリズム研究所:まち起こし、地域起こし、地方再生の目玉としてやっている。町を縦断する企画として、ウォーキングで練り歩こうというのを私が言い出してやり始めた。


●かみのやま温泉クアオルト:蔵王の中腹、1000mにあるウォーキングコースはミュンヘン大学の認定コースだ。毎日ウォーキング6年目で、12,000人になっている。毎日歩いていても同じ所を歩かない。


●熊野古道健康ウォーキング:熊野古道の地形や自然を生かしている。ドイツの気候療法を活用している。


●天草ヘルスツーリズム:早朝ウォーキングが42コースある。温泉もない小さなホテルで閑古鳥がないていた。今や年間7,000人も客が来るようになった。

3.六甲山での活用

■ウエルネスウォーキングの推進

●森林植物園でのモニター実験:2014年に六甲保養地研究会で、森林植物園でウエルネスウォーキングをやろうという取り組みをした。


●六甲健康保養地研究会:奥田会長が来ている。前の神戸夙川大学の公開講座で同じテーマで講演をしたのがきっかけで研究会ができ、ウエルネスウォーキングをやるきっかけになった。


●森林植物園ウエルネスウォーキング:植物の観察ではなくて、健康のために歩くという価値付けをし直す。3月に健康ウォーキングマップを納入するのが目標。


●ウエルネスウォーキングの概念:人生を責任を自分で持って、楽しく充実したものに、点検をしながら変革し続ける。「気候性地形療法」を活用し、地域の人たちと仲良く元気になって、まちを生活していこうというのを、定義にしていきたい。「健康志向・楽しさ」の軸と「スポーツ・ツーリズム」の軸で、全部を含んだものと考えている。


●ポートピアホテル「朝の森林浴散歩」:うちのゼミで毎月第一水曜日にやっている。


●多可町健康保養地推進計画:兵庫県多可町で「健康保養地推進計画」を今年の春から始めた。エーデルささゆり」を拠点にして、「なか・やちよの森公園」を歩く。


●六甲山の保養所の活用:六甲山の保養所をもう少し活用できたらいい。眠っているところを若い人に借りて貰って、私たちの活動とか考え方に共鳴して貰って、サービスも一緒に提供できると面白い。 

西村さんのまとめ

 ウエルネスウオーキングは「活動」ではなく、「事業」としてやることを覚悟しています。そこで雇用が生まれるくらいにやっていくことを考えて活動しています。(※スライドの締めくくりは、急がば回れ、地域が主体となる「地域主権」と謳われていた)

事務局から

 朝はウエルネスウォーキングを楽しむ指導、午後はヘルスツーリズムや健康保養地の動向を解説していただきました。六甲山を健康保養地にするには、「健康増進のもてなし」を豊かにする必要を痛感しました。