第78回 六甲山地の生い立ちと阪神大震災の教訓
阪神大震災は「六甲変動」の一駒です。自然と付き合う人間の知恵が必要です。記念碑台から大阪湾を見渡しながら、自然と仲良くすることを考えていただく機会にしたいと思います。(觜本)
觜本さんは神戸新聞に3年間にわたって「大地の科学」を連載されています。阪神大震災の3日前、1995年1月13日に「神戸で大地震は起きるのか」という授業をされ、「絶対に起きる」と断言されたエピソードもお持ちです。兵庫県南部地震は自然現象、阪神淡路大震災は社会現象だと明快に区別され、自然と人間との関わりを見直すことを提起されています。
| 開催日時 | 2009年9月12日(土) 13:00 |
|---|---|
| 会場 | 六甲山地域福祉センター(神戸市灘区六甲山町西谷山1878-133) |
| 講師 | 觜本 格(神戸市立飛松中学校 教諭) |
| 詳細 | 案内チラシPDF 報告書抜粋PDF |
初めて六甲山地域福祉センターで開催
当初の日程を1週間早めることになったため、会場は神戸市立六甲山地域福祉センターに変更しました。24名の参加者には適度な広さで快適でした。午後から雨になり視界も悪くなったので、六甲ケーブル山上駅の天覧台から大阪湾を眺望してお話を聞く予定は変更し、室内での講演に集中しました。
阪神大震災が大きく研究を変えた!
講師の觜本格さんは須磨区の神戸市立飛松中学校教諭で理科を教えておられます。飛松中学校は校内に川や雑木林などがあり、環境学習に最適な自然環境を持つ珍しい学校です。また、校舎からは六甲山の全山域が遠望できるのも自慢だとのことです。
觜本さんは神戸市自然研究グループから『神戸の地層を読む』、『アカシ象発掘記』を出版されている地質の専門家です。神戸新聞に3年間にわたって「大地の科学」を連載されています。
講演の冒頭、ガラス棒に力を加える実験で、地震が起こる本質を説明されました。工夫を凝らして難しいと思う地学を分かり易く話されました。熱意のこもった講演に接した皆さんが感銘を受け、基礎学力を高めるという大きな刺激を受けました。
世界の歴史に残る都市災害
阪神大震災の直前、1月13日の授業で「地震は必ず起こる」と断言されています。地震後には倒壊した木造家屋を調査された方がいます。それを基に、直下型地震のゆれのすさまじさを説明されました。
神戸市で大地震が起こる可能性の高さは研究者の常識であり、1974年には調査報告が新聞でも大きく報道されました。一方、行政では地震の最大規模を震度5と想定したまちづくりを行いました。「震度6では木造家屋は倒壊する。それを前提とした対策が必要だった」と、市民が報告書を読み解く学力を持たなかった空白の21年間を残念がられました。
六甲山地は100万年かけて隆起し階段状の地形になっています。100万年かけて約1000mの高さになった六甲山にとって、地震は小さな自然現象です。1995年以降は地震の活動期であり、防災拠点の整備、市民が科学を身につけること、住民同士の助け合いが必要になると説明されました。自然とともに生きていく人間の知恵が大切だと強調されました。
市民が科学に強くなろう
活断層の上で暮らしている現実を直視する機会になりました。地質という研究が安全に生活することにつながっており、科学を学ぶ大切さを啓発されました。
講演内容
講演の挨拶(觜本 格さん)
須磨区の飛松中学校で理科を教えています。今日は地層から、六甲山の生い立ちを読み解いてみたいと思います。
1.阪神大震災はなぜ起こったか
■地震の予知は不可能だと理解しないといけない
ガラス棒に力を加えて割る実験がある。割れた振動が地震で、割れた箇所は断層にあたる。地震の場合は力を加えられている岩盤が破壊され、振動となって地面を揺らす。断層は過去に地震が起きたという証拠になる。
単純なガラス棒ですら、割れ方を予測できない。複雑な条件下の地震の予知は不可能だといえる。
■阪神淡路大震災の4日前の授業
1995年1月13日に「神戸で大地震は起こるのか」という授業をした。神戸は断層だらけの街で、断層の多くを占める活断層は、最近動いた形跡がない。時期は分からないが、必ず神戸で大地震が起こると私は断言した。1月17日、私の予想を超えることが現実に起こってしまった。
■下から叩きつける揺れが家屋を倒した
地震で倒壊した木造家屋がどの方向に倒れたかが調査され、地域によって同じ方向に倒れている事実が分かった。私の推測では、揺れはじめの4~7秒後のものすごく大きな一発のゆれで倒れたのではないかと思う。激しい衝撃で、石や人が飛んだという話もある。
■震源とは断層の最初の破壊地点に過ぎない
直下型地震の場合、震源は断層の破壊が始まった点に過ぎない。地震の波は断層からやってくる。断層は、明石海峡から南東・北西方向に4~50km、深さ10kmの面として割れた。断層の上の街は、全部直下からのゆれに襲われた。
■大地震の可能性は常識だった
神戸では地震が起こらないと思っていた人が多い一方、研究者の間では大地震の可能性の高さは常識だった。1972年、神戸市は大地震が起こる可能性と対策について、大阪市立大学の笠間太郎氏に調査を依頼した。2年後の報告書では、地震の可能性が高く、壊滅的被害が間違いないとされ、神戸新聞にも大きく報道された。
■空白の21年間
神戸市は報告書は置いておいて、地震の最大規模を震度5と想定してまちづくりを始めた。歴史上の記録が根拠とされた。1974年から震災までの21年間、市民の啓発は行われず、小中学校の理科では地震の原因や本質・被害について教えられなかった。市民に報告書を読み解く学力がなかったことが、空白の21年間を作った理由ではないかと思う。
2.六甲山と大阪湾の生い立ち
■六甲山はいつから高くなったのか
ふつう山地は隆起すると地層が削られるため、隆起の経歴が残らないが、六甲山地は日本の山の中で最も条件が良く、履歴を知ることができる。
甲山の標高200mの場所に、海岸にあるような礫の地層がある。これは大阪湾の海底から55
0mの深さにある100万年前の地層と同じ。六甲山は100万年かけて隆起し、階段状の地形になった。山頂が割合平らなのは、2~300万年前に丘陵地だったからだろう。
■日本列島は最も激しい地殻変動の時代にある
現在、日本列島は最も激しい地殻変動の時代にあると言われている。200万年前、神戸周辺は古瀬戸内海という淡水の湖が広がっていた。100万年前に隆起して陸地になり、40万年前に海が進入してきた。40万年以降、六甲の変動が活発化し、激しい地殻変動が続いている。
■六甲山は1000年に1回の地震を100万年続けてきた
六甲山頂は震災で約12cm高くなった。六甲山は1回の地震で数10cm隆起し、それを何千回も繰り返し、100万年かけて約1000mの高さになった。震災は、六甲山にしてみればちょんと上がった程度。我々の生活スケールとは桁が違う。
3.阪神大震災の教訓は何か
■なぜ神戸の人たちは大地震が起こらないと思っていたのか
地震には静穏期と活動期があり、それが交互にやってくるということが分かってきた。近畿地方は1962年から94年まで静穏期で、マグニチュード7以上の地震は1回もなかった。その結果、近畿では地震が起こらないと勝手に思い込んでしまった。95年以降は活動期で、活動期になると、必ず南海地震・東南海地震が発生する。
■自分の街を知っていることはとても大事
学校の教師は深夜まで仕事をして、地域の人間関係はほとんどない。人間関係は希薄な地域が多い。近所の人と顔を合わしても近所の人であるかどうかがわからない。
震災のとき、理科室は学校で最良の避難場所だった。水道・ガスがある。仕方ないが、困った。学校以外に地域の防災拠点が必要だと思う。
■人間は「異常」を「正常」と判断してしまう
『人はなぜ逃げ遅れるのか・・・災害の心理学』(集英社新書、2004年)によると、人間には予期せぬ異常や危険を「正常」と判断する遊びがある。2003年の韓国の地下鉄火災事故では、前の車両が燃えているのにじっと見ている人がいた。人間は「異常」に落ち着いて、なかなか動こうとしない動物。犠牲者はパニックのためではなく、避難するタイミングを失って被害を蒙ってしまう。
■市民が科学を身につける必要がある
南海・東南海・東海地震が将来確実に起きるにも関わらず、震度6で確実に崩壊する家屋が放置されている。個人ではどうしようもない。放置するは大問題だと思う。
我々市民が科学を身につける必要がある。科学的に地球のことを知るということは、自分の命を守ることに繋がる。防災対策では特別な対策よりも、豊かな人間関係が一番大事になる。
質疑応答
阪神大震災のとき、海の方がオレンジ色に明るくなったのを見たが?:石英に力をかけると石自体が光る。地震のときは、岩盤が歪んでこすれるので力が加わる。何か関係があるのだと思っている。
断層の上に家があるんじゃないかと思う:あまり知らない方がいいんじゃないでしょうか(笑)断層の上にあっても、層群が同じであれば大丈夫。地盤を切ったり、埋めたりした所はよろしくない。
六甲アイランド在住だが、津波は大丈夫?:津波は陸側の奥まったところが危険。1mの津波で、海抜5mのところまで危なくなる場合がある。六甲アイランドのような海抜の低い所では水面が1m上がるだけ。
まとめ(觜本さん)
日本列島は地震と洪水でできました。地震と洪水のおかげで神戸のまちはあり、六甲山があります。当然震災も起きるし、洪水も起きます。地震は止めることはできないし、雨を降らさないわけにはいきません。自然とともに生きていくという人間の知恵が必要です。地震の瞬間には何もできません。いつも備えをしておく必要があります。
事務局より
阪神大震災から14年が経ちました。六甲山は地震と洪水を繰り返しながらできあがったことを知りました。いつかは明言できないが必ず大地震は起きるというお話で、目を覚ました思いです。
六甲山を活用する会事務局
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