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市民セミナー報告書より

紅葉シーズンの六甲山は大雨

  晩秋の紅葉の見頃は大雨になりました。午前中の環境整備・体験会は14名が集まり、人工林の杉林の観測とシュラインロード探訪の2班に分かれて、雨と風に打たれて活動しました。
 今年最後の市民セミナー会場は、髙城さんと社員の人たちの手で、スライド上映できるミニギャラリーに変身しました。社員の方が10名以上参加されて、総勢43名の賑
わいになり、写真に没頭して楽しく過ごしました。

事業家で野鳥風景写真のパイオニア

 講師の髙城 芳治さんは、調剤薬局や介護事業全般に渡り経営され、野鳥風景写真のジャンルを開拓されているプロの写真家です。著書の『身近な野鳥ウォッチング』を知って、講演をお願いしました。本社で木製の額入りの野鳥風景写真を拝見し、「物語があります」と感嘆しました。
 講演にあたっては下見や準備を重ねて、当日の展示や演出も工夫され、まさにプロの仕事ぶりを見せていただきました。

野鳥風景写真に魅せられた感動のひととき

 講演の開始前から消灯した会場には、六甲山の野鳥風景のスライドが映写され、野鳥の鳴き声も響いていました。
 「雨と風が激しいですが、私の写真の癒しの世界で過ごしてください」という挨拶に続いて、六甲山で見かける身近な野鳥のスライドになります。冒頭は「自然は私たちにとって掛け替えのないものです 野鳥も動物も種の保存のために必死で生きています 人は自然環境の保全に努め、子孫の代まで 残すことは大事だと思います そして、我々人間も野鳥も同じ地球の仲間なのです」という明快なメッセージです。メジロ、ホウジロ、カワセミ、アトリ、サンコウチョウ、と次々にスライドを映しながらエピソードを話され、野鳥と自然が共生する世界に引き込まれました。
 後半は撮影技法のアドバイスで、野鳥の習性を知ること、態を知り、入会権を解消し
光を読むこと、自分の感性を磨くことなど、含蓄のこもった助言でした。最後に自然と
の関わりを大切にして欲しいと、繰り返して強調されました。髙城さんが野鳥の目線から、自然や人生の大切さをメッセージされているように感じられました。

写真を通して自然への関わりを深める

 野鳥風景の写真の1枚1枚1が豊かな物語を秘めており、感動を与えています。失われていく自然環境を惜しみ、里山風景に自然の妙味を発見し、メッセージを発信されて
いることに共感します。小さな会場での催しではもったいない、多くの市民や子どもたちにも見てもらいたいです。

講演内容

講演の挨拶(髙城 芳治さん)

 20数年前、六甲山で野鳥を専門に撮り始めました。近隣の里山から六甲山までの野鳥風景をご紹介します。六甲山の魅力に触れ、足を伸ばす参考にしてください。今日は外は大変な雨と風の激しい世界ですが、私の写真の癒しの世界で和やかに過ごしてください。

1.六甲山で見かける身近な野鳥

■エサ場に集まる野鳥

 メジロは庭先でも六甲山頂でもいる。この近辺は日本でも有数のため池が多いところで、そこへホウジロが飛来しエサを食べる。カワセミは「清流の水晶」。芦屋川上流や仁川、森林植物園の蓮池、野鳥の森にもいる。近隣の西区、北区の里ではシラサギ、アオサギ等が田んぼ、畑でカエルを食べる風景が見られる。アオサギがタンポポの草原に降りてきて獲物を探している。
 アトリは冬鳥。モミジの種を食べに来る。群でエサを求めて六甲山周辺を旋回していたり、森林植物園や学習の森や甲山でよく見かけたりする。

■六甲山に登ると見られる野鳥

 六甲山のとある場所にはサンコウチョウもいる。羽が長くてブルーのアイリングが印象的だ。森林植物園で撮ったウソはくちばしが太く、実を割って食べる。これホント。絶滅に近いというハヤブサもいる。撮るだけでなくメッセージを伝えるため、月をあしらい花鳥風月の世界を撮ってみた。

■六甲山の野鳥風景を伝えたい

 六甲山や近隣の里山には多様な野鳥がいる。しかし、人は見ようとしない。つぶさに見ていくと、野鳥と動植物とのつながりも分かり、人間だけで成立している社会でないことが分かってくるのに。黄金色にたわわに実った稲穂を前にたたずんでいるくちばしの長いタシギ、雪の中で肩をすぼめてたたずんでいるトンビ。こういう物語を感じさせる情景が野鳥風景である。野鳥を撮るだけでなく、5年先、50年先を見て「六甲山にこういう景色があった」と思ってもらえるよう,野鳥風景を写真に残していくのが私の使命である。

2.四季の風景と野鳥、さらに花や動物など

■季節を告げる鳥

 春、メジロはまさに初春の香りをもたらしてくれる。国鳥のキジが春の七草、ピンクのホトケノザに来て、春を告げる羽ばたきがレンズを通して聞こえてきた。オオヨシキリは去年のアシが残った下から新芽が出てくる頃、ギョギョシ、ギョギョシと大きな声で鳴きながら春を告げる。
 初夏、田んぼを歩くとキリキリキリと鳴くケリが散歩している。雛が道草するので早く行きなさい」と言っているような光景が見られる。カワラヒワはニセアカシアが咲き菜の花が枯れる頃、よくナタネを食べにくる。
 夏にはヒマワリ、冬にはセイタカワダチソウを食べにくる。季節は秋、真紅の彼岸花
が終る頃、ノビタキが南に渡る中継のため、黄金色に輝く草原にとまっていく。近隣の山の草原とか田んぼでよく見られる。
 秋から翌春には、田んぼや竹やぶとか「残りユズ」にスズメがとまっている。こういう所で集団になって遊んでいる。

 スズメは人家があるところにしか棲まない、人間と常に関わりがある野鳥の代表だ。農家からみると鳥害の鳥とも言える。タマシギは田植えが終わった後の隙を狙ってやってくる。土を盛ったところに営巣し卵を抱く。田植えが終わって、孵化まで何週間かは人間が入ってこないことを察知している。人間の農耕も含めた自然の摂理の流れの中で生きている。

■花鳥風月を写真に残す

 月は東に日は西に。宵の月を背景にカワウを撮った。一日を終えたカワウがみんなで月見をしているような情景が印象深い。
 その土地ならではの情景を題材にした花鳥風月を克明に捉えて、詩歌や絵画にしているのが日本画の世界であり、日本の文化だと思う。それを写真として残せたらいいなと思っている。 

3.近隣の野鳥風景と撮影技法のアドバイス

 これから私の撮影技法の話をします。私に代わってアマサギのアマター君が司会します(髙城)。

■野鳥が集まる場所で定点撮影をする

 野鳥は実のなるところに集まるので、その習性を知って場所が分かれば、カメラを据えると野鳥は簡単に撮れる。

■光を読みながら背景を取り込む

 水辺の野鳥はただ単に生態を撮るのではなく光を読みながら背景を取り込んで撮る。波がさざ波になったり止んだりしている中でアオサギを撮った。風で波が変わると、映りこみの状況も変化し雰囲気も変わる。写真は光を読むことだ。

■写真は引き算、主役と脇役がいる

 引き立て役がいるから主役が引き立つ。シンプルイズベストで切って行く。
 カシラダカが冠を立て、冬の寂しい所で佇んでいる。何を考えているのか、春が恋しくなったと思っているかもしれない、と想像が膨らみ写真に物語が出てくる。

■カメラは自分の感性を磨く道具だ

 デジタルカメラの時代は誰でも簡単に撮れる。例えばマクロレンズで撮って次に望遠で撮るなりすると見方が広がり、見えないものが見えてくる。写真は引き出しが広くなり、懐を広げ感性を磨く道具かもしれない。実社会で役立つことも多い。

■自然との関わりを大事にしてほしい

 アマターです。これで野鳥風景写真のミニ講座は終ります。写真をたくさん撮って感性を研いてください。そうして、自然との関わりを大事にしてほしいのです。農耕民族である日本人が培った中に、我々鳥も昆虫も人間も生活をしています。これを変えてほしくないのです。ありがとうございました。

質疑応答

■鳥を狙われる時、露出はどのくらい?

 大体は標準、背景により露出を変えます。野鳥は開放気味でシャッタースピードを早くする。

■サギの写真は水面の感じが違う。どんな工夫?

 光線を自分の一番いい向きに、背景に人工物を避けて、太陽が雲に入ったので絞って写した。

まとめ(髙城さん)

 私は六甲山で仕事や野鳥風景作品作りをし、育ててもらいました。経営者である反面、自然も田舎も都会も便利さや不便さも知って、50年は鳥を見ている人間です。便利だが人の心が病む社会にあって、まだ豊かな自然があることを知ってもらい、孫の代まで残す活動をしたいと思います。
 この講演で、また六甲山が好きになったので、作品として一回まとめようと思います。皆さんも六甲山の魅力を考えてください。

事務局より

 髙城さんの写真の奥には、孫子の代までかけがえのない自然を残そうとする壮大な計画があったのだ。それが野鳥風景写真の本質であった。
 我々もかつての六甲山がそうであった落葉樹主体の雑木林を復元し残して行きたいと思う。