参加申し込み

市民セミナー報告書より

積雪と風邪で欠席者が続出

 六甲山は早朝で-5℃、表六甲ドライブウェイではチェーンを装着していました。インフルエンザの流行とも重なって、参加者の欠席が目立ちました。ガイドハウスにはボラン
ティア7名と西山ファミリー4名が集まり、定例の環境調査と自然体験会を行いました。冬芽が大きくなって、春の到来を待っていました。

魚の研究者であった河村さんが牧場を経営

 講師の河村 貴史さんは大学時代から魚に関心が深く、海づり公園に就職され、栽培漁業に携わってこられました。3年前、海から山に上がって六甲山牧場の場長として、独立採算の事業運営に携わっておられます。
 昭和25年に畜産振興を目的に開設された高原牧場は、昭和51年に「動物や自然との
ふれあいの場を市民に提供する」観光牧場として一般開放されました。昭和61年に神
戸市緑農地開発公社(現・神戸みのりの公社)に管理運営が委託され、平成18年に指
定管理者制度で現・公社が管理運営しています。動物を管理するのは人を365日配置する必要があり、運営の引き受けては少ないとのことです。

羊が自由に歩き回っているのが特長

 講演の冒頭で、出来上がったばかりの広報用DVDを披露されました。平成4年の来場者数最盛期80万人以来、減少傾向で30万人前後になっており、来場者を増やす試みの一環です。清々しい情景に親しみました。
 続いて六甲山牧場の概況を説明されました。牧場の広さは125ha で、標高は700m前後です。牧場施設を管理事務所、めん羊舎、牛舎、放牧場の順で説明され、羊との垣根が無いのが特徴だと強調されました。堆肥舎での堆肥づくり、売店での牛乳販売、チーズ館でのチーズ製造、売店で人気のソフトクリームなど、運営の工夫の数々も紹介されました。そして、動物たちの紹介です。130頭と一番沢山飼っている肉用兼毛用のコリデール種の羊、サフォーク種の肉用羊、ヤギ、ホルスタイン種の牛などの飼い方を詳しく説明されました。木曽馬やミニブタ、アンゴラウサギ、牧用犬など、少数の動物も紹介されました。
 終盤は牧場の運営として、酪農教育ファームの試みや、指定管理者更新の課題を説明され、参加者も率直に意見交換しました。六甲山牧場の現状と課題を理解できました。

六甲山上の楽園を維持してほしい

 六甲山上の施設の経営では皆さんが苦労されています。人気のある六甲山牧場も例外ではなく、課題を抱えて頑張っておられます。市街地近くで動物と自然に触れられる、全国屈指の貴重な環境だと再認識します。市民牧場としての維持・運営に賛同と協力が集まることを期待します。

講演の内容

講演の挨拶(河村 貴司さん)

 六甲山牧場で場長をしています。魚に興味があり、大学では魚に関する研究、就職は海釣り公園と、ずっと魚に関わってきましたが、3年前牧場に異動し羊牛などの家畜と関わるようになりました。この機会にいろいろ写真や資料そろえて来ました。

1.牧場の歴史と現状

■始まりは牧草の実験栽培

 昭和25年に畜産振興の目的で高原牧場が開設され、約13ha の牧草栽培実験が始まった。以来、牛の飼育も始まり、多いときは乳牛を230頭くらいを飼っていた。市内の酪農家を支援するため技術開発をして酪農家に教えたり、昔は子牛を育てるのが難しかったので子牛を預って大きくしてから酪農家に帰す仕事をやっていた。

■観光牧場として一般開放

 昭和51年には畜産振興の役割を終え、動物や自然とのふれあいの場を市民に提供するため、観光牧場として一般開放された。初年度24万人弱の入場以後もどんどん増えたが、平成4年度80万人をピークに減少に転じ、今年度は30万人と予想している。
 牧場は全体で125.8haとかなり広いが、そのうちの1/5(甲子園球場6コ分)を使っている。

■指定管理者制度の光と影

 経営面では平成18年度から指定管理者制度になった。独立採算制で4年ごとの見直しがあり、よい提案をした会社や団体が経営できる。今は神戸みのりの公社が管理運営をしている。常に新しい企画が必要で、お客様の喜ばれること、以前なかったことをしたいと皆が思うようになってきた。しかし、4年では長期的視野に立った仕事ができず、設備投資も回収できない。飼育管理の技術は1年や2年では一人前にならず経験や長期的育成が必要だが、4年期限では正職員が雇えず、育成できない悩みがある。

2.牧場の動物たち

■一番たくさん飼っている羊

 牧場では羊が一番多く、毛と肉を取るコリデール種を130頭飼っている。羊は毛が生え代わらず、毛が長いと夏越できないので5月に毛刈りする。
 128頭がメスで2頭が種オスだ。子供が冬の寒さで死なないよう春に出産させる。そのため、9月から11月まで種オスをメスの群れの中に放す。毎年2月頃から100頭もの子供が生まれるが、20頭は後継用に残し、あとはラム肉になる。親も老齢になると肥育農家に売られ,大きい羊はマトン、子羊はラム肉になる。このほか、肉用のサフォーク種も2頭いる。

■羊の追い込みショー

 平成18年にオーストラリアから現役の牧羊犬を購入した。睨みつけて羊を追うタイプで、羊を追っている時の険しい顔と追い込みが終った後の軟らい顔が見られる。その子も追い込みショーをしているが、羊になめられているようで言うことをきかないので、なんべんも失敗する。普通10分か15分で終るところ、30分もかかり、結局「今日はできませんでした」とあやまる事もある。逆に、うまくいった時は拍手をもらえる。

■牧場といえばホルスタイン

 牧場では12頭飼っている。母牛は乳がはると痛いらしい。毎日搾乳に誘導していると、「ここに来たらお乳搾ってくれるんや」と分かってきて,朝には順番に入ってくるようになる。牧場では朝9時、夕方6時に搾乳する。搾乳を止めると牛の調子が悪くなるので毎日休まず搾り続ける。1回10~15kgくらいの牛乳がとれる。
 生まれた子供は40kg程で、メスは皆残す。1年半くらいで出産できる状態になり、獣医さんが人工授精をし、受精後280日程で子供を産む。初乳には抗体が含まれているので、初めの1週間は母牛から搾った乳、その後は粉ミルクを与える。
 オス牛は生まれてから授乳体験に使った後2か月以内に肥育農家に売られ、1年半くらいで肉になる。メス牛でも6、7年で乳の出が悪くなり、肉用に肥育される。大きいものはそのまま屠殺場で肉になる。1年1産で、1年のうち子供を産む前の2か月(乾乳期)を除いて10か月は搾乳するサイクルとなる。人間に取られてばかりでかわいそうだが産業動物といわれる家畜なので、乳を搾られ年をとれば肉になって人間の役に立つ。

3.牧場イベント、体験など

■動物と自由にふれあえる魅力

 小型馬のポニーで乗馬体験ができる。オスは気性が荒いので小さい時に去勢をする。木曽馬や道産子(北海道和種)も乗馬体験に使う。生まれた子牛は牧場のなかで授乳体験に使う。
 羊はふれあい広場でお客様に餌をやってもらう。この1月にサフォーク種の羊が、ちょうど日曜日でお客様が見ている前で赤ちゃんを産んだ。赤ちゃんが立ち上がる時には「がんばれ、がんばれ」と声が上がった。
 普通は牧場の中の柵の中に羊がいるが、六甲山牧場は園内をどこでも自由に羊が歩き回って羊との垣根が無いのが特長だ。逆に、一番危険も多い。口蹄疫の流行以後、お客様すべてに入口で足の裏と手の消毒をしてもらっている。

■食を楽しみつつ食を考えてもらう

 売店では神戸チーズ(カマンベール)、搾りたての牛乳、神戸チーズ入りソフトクリームを売っていて人気がある。QBBチーズ館はレストランと展示ホールでチーズづくりなどの展示と売店がある。チーズ館横がまきば夢工房でチーズ、バター、アイスクリームづくりの体験ができる。
 六甲バター株式会社にチーズつくり体験のノウハウや設備拡充のスポンサーになっていただき、最近は共同でピザ用の石窯を設置した。
 牧場では、「飼っている家畜から命の恵みをいただき人間が生きているのだ」ということを食を楽しみながら考えていただく体験型イベントをしている

■牧場ファンを育てる

 動物との触れ合いや飼育員を通じて食や命の大切さを子供たちに伝えようというのが酪農教育ファームだ。「牛乳は本来は牛の子供が飲むのを人間がいただいているもので、大切にしよう」という趣旨だ。牧場の意義もこのことを市民に伝えることで、きちんと伝えて将来牧場ファンになってもらうのも期待している。
 動物を扱う専門学校に協力して、飼育員にあこがれている学生に研修の場を与えている。研修生に働いてもらい飼育現場のノウハウを教えている。美術術学校から「牧場のイメージでポスターやキャラクタを作りたい」という声があり、牧場の意義も説明し、若い人の目で見る牧場のイメー
ジでデザインをまとめてもらう取組もしている。

質疑応答

■若者の企画を聞いて一緒に活動できるか?
 牧場のコンセプトに合うなら歓迎。
■どこからのお客さんが多いの?
 神戸市2割、兵庫県と大阪が3割、京都、大阪の団体客を狙う。
■バスなど交通の便が悪いのでは?
 はじめからダメと思わずに神戸市に提案してみる。六甲山上関係者と連携して働きかけたい。

まとめ(河村さん)

 同じイベントの繰り返しではお客様に喜んでもらえない。既存施設の中で何か新しいものができないか常に考える必要がある。私たちがいつも牧場を見ている視点とは違う若い人の視点で見てもらい、新しいものを提案してもらい牧場の魅力アップを図りたい。

事務局より

 入場者減や指定管理制度の制限の中での牧場経営の苦労が偲ばれた。しかしその中で、六甲山牧場は牛や羊を育てるだけでなく将来の牧場ファンや動物や命を慈しむ人の心も育てていたのだ。
 これは六甲山上での活動の原点である。忘れないようにしたいものだ。